< 渚の秘密 >
砂の中に 雨が浸みていく
海は黙って蒼いうねりを重ねてる
誰も知らない止まったような
時間の卵の中で
今 夏が鼓動を打ち始めた
冷たい雨は音を立てず降り続ける
湿った重い空気は 柔らかい掌のように
卵を包んであやしてる
もうすぐ 生まれてくる
君はどんな季節なんだろう
雷が卵の殻を割る日は近い
いつか この浜辺で夏が生まれ
空へ昇って世界を包む時まで
雨は降っている
秘密を隠すように
卵を守るように
濡れた砂が優しく窪んで
卵を受け止めている
早く生まれておいで
君を待っているこの渚で
< だって雨が降るから >
咲き初めた時 紫陽花は嬉しくて
ほんのり 微笑みの赤い花だった
降りしきる雨
人は皆 傘をさして歩き
花を愛でることなどしない
だんだん 悲しくなって
青ざめていく花びらは 紫に変わる
雨があがれば 渇いた花は
どこかくたびれて
ひっそりとしている
絹糸を垂らすような細かい雨なら
だれかその美しさに気づいたでしょうか
紫陽花は 不安をうつし七変化
梅雨空を見上げて 溜め息ついた
だけど雨の中で 美しく咲くのは
この花だけだと自負を持って
再び紅を帯びていく
< 重さ >
グッとこらえて 唇噛んで
だけど 堪えきれず
ついた溜め息
その瞬間
身体の力が抜けて
あふれ出た悲しさ
あなたを大好きだった分と
同じ量の涙が
とめどなく流れる
軽くなるどころか
地に落ち込むような
押し潰される感覚を覚える
あなたを大好きだった分の
私の幸せが一瞬で
絶望に変わった
涙が止まらない
雨に誘われたように
涙が止まらない
< 歪み >
俄に 殺意が湧く逢魔が時
無差別な憎しみの対象は
定まらず 頭の中で
マシンガンは暴発する
闇の中に銀色の目玉
いつも警戒するように
こっちを見ている
逃げたいのか
砕けたいのか
・・・・・・・・
わからない
わめき散らす言葉 吐き捨てた唾
どれもだらしない自分の一部だと思うと
情けなくて仕方ない
現実という悪魔は笑いながら
心を逆撫でして 底に沈んだ欲望を呼び起こす
逃げたいんだ
出口が無くても
・・・・・・・・
ちきしょう
道徳と理性を未消化のまま身体だけ
大人になったんだろう
もう 取り返しはつかない
邪魔するなよ
説教しないでくれ
・・・・・・・
答えが見つからない
あがくことが生きることなら
楽にしてくれ
楽にしてやろう・・・・
< 壊れた温度計 >
心地いいから そこから動きたくなかったんだ
どうして みんな急き立てるように
明日を目指せと言うの
惑って迷って
自分が見えなくなる
混乱した頭の中に湧く憎悪を
どこに向けたらいいのか
ぬるい そう ちょうど流れる血の温度
日だまりで遊んだ無邪気な記憶に重なる
また白い目でこちらを見ないで
どうして どうして
ここに居ちゃいけないと怒るんだ
方向の定まらない刃を
自らの胸に突き立てて
甘えた気持ちを切り捨てられたら
完全な成熟を果たせるだろうか
愛の温度はどのくらい?
それさえ知らない世代に
本当の安らぎは見つかるの?
日だまりで微睡む老人のように
穏やかな日々はいつ来るの?
動きたくない
動けないから
刃を隠したまま
このぬるい甘えの泥沼に
首まで使って
漂うように生きる自分を
どうにも出来ずにいるだけ
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