恋虫の章・・・ページ1

<誕生日>
あの人の誕生日が来る
一度も おめでとうを言えなかった
だけど 特別な雰囲気を感じる
ダイスキだった人の誕生日
好みだったタバコをひと箱買ってきて
誕生日のケーキに乗せるロウソクにみたてて
吸えもしないくせに 火をつけてみた
胸の中が痛いよ
苦しくて 涙が出てくる
ひとつ年取った分 イイ男になって
どんな恋をしているんだろうか
誰とお祝いしているのかしら
おせっかいな気持ちごと
灰皿の中で消して
ちょっと 苦笑いしながら
ハッピー バースディと 呟いた
なぜか 大切な気がしてくる
ダイスキな人が生まれた日
<猫舌>
熱いコーヒー飲めなくて
いつもカップを持って しばらく 揺らしている
気取ってるの?って訊くと
猫舌だから 飲めないんだと笑った
冷めかけたコーヒーなんておいしくないのに
あなたは恋する時もそうなのね
身を焦がすほど 誰かに夢中になれない
それは どうして
くちづけするときは 熱く熱く触れられないほどでいいの
よこしまで臆病な気持ちなら はねつけてしまおう
ひとはだ加減で いつでもサヨナラできる
そんな関係は よけいに辛いことだと
わからないのね
愛して欲しい
私の心に触れて
猫舌だから そんな言い訳聞いてあげない
愛してほしい
ほんとの気持ち教えて
それが別れになってもかまわない
恋が冷めないうちに
私の心を揺らさないで
<傷>
指に残る傷
君の悲しみの形
紫色した 切なさのあと
好きなのに届かない
指を口に含んで
君を 想う
好きなのに こんなに好きなのに
傷跡を自分で噛んでみる
君の寂しさの形なぞるように
好きだから 涙が溢れる
傷よりも痛い恋心
病んだ気持ちが膿となって流れる
好きなのに とても好きなのに
届かないこの気持ちを
傷の中へ封じ込めたい
<I wanna be>
遠ざかるテールランプ見送っていた
タイミング良く 赤信号待ちで
ほんのわずかの間
横顔を見ていたの
あなたは知らないそんな時間さえ
私が とても大事にしていること
彼女に見せる顔を時々覗かせて
苦笑いしてるような表情 それは戸惑い?
はぐらかさなくていい
覚悟は 出来ているから
手に入らないものを必死で掴もうとしていた
その気持ちだけが 私を動かしていた
この星さえ 手のひらの中握りつぶせると
だけど どうしてたった一つの心は ダメなんだろう
心のすき間 いたずらな思惑
風向きが少しあやふやなとき 私はすべり込んだ
あなたが 好きだった どうにもならないほど
大きく手を振ったあと 唇に指をあてて
重ねたあなたの想いの偽りに胸が痛くなる
あなたが 好きだった 奪ってしまいたかった
堅くまぶた閉じる 時間を切り取るように
新しい明日は一人で迎えようと決めた
横顔に さよならを
あなたが見せてくれたのは その心の半分だけだから
横顔に さよならを
真っ直ぐに見つめ合える誰かとめぐり合うためにも
<満ちる気持ち>
頭の中が
また あのひとのことでいっぱいになる
この世の全ての罪を我が手に
受けてもいいと思えるほど
逢いたいと思う
たったひとりに
<白い迷宮>
その強い香りに誘われて
迷い込んだ 恋の迷宮は
君の心の中か…
血染めの愛の形は
その深紅のくちびるに浮かぶ
謎めいた微笑みのようで
抱きしめ合って落ちていきたい
すこし気だるい 悦楽の時の湖へ
<ALONE>
気がつくと 君を探している
手掛かりは 何もないのに
空中をフワフワ歩いているようで
深海をヨロヨロ這っているようで
もがくような苦しさが募ってくるよ
言えなかった一言が この手の中で
光る石に変わった
君がいつか帰って来る日のために
目印として 部屋に飾ろう
垂れ込める雨雲へ 人差し指を伸ばす
泣き出しそうな灰色の雲は指に巻き付け
もう一度 青い空を仰ぎたいよ
ガンバって 微笑んで待ってる
震えるほど淋しい日もあるけど待っているよ
張り裂けそうなほど愛しさが募るけど
待っている
待ちたいんだ 君に逢いたくて
どうしても あの微笑みに逢いたくて・・・
<雹ににうたれるがごとく>
悲しみが泪になるうちはいい
泣けないほど 辛くて
雨に流せるほど 簡単にいかない
激しい稲妻に裂かれ
雹に打ちのめされて
穴だらけに バラバラに 微塵も残さず
壊れてしまいたい
愛されないなら
もう 価値のないこの命
何も欲しくは無かった
・・あなた以外は
思いあぐね 捜し惑い 叫びつづけても
どうにもならない
愛されないなら
何の意味があるのこの命
奪い去りたかった
・・あなた一人を
<テディベア>
小さな身体の中 綿と一緒に詰めた想い
ボタンの目が 語りかけたコトバ
君を大好きだと
伝えるすべを 知らなくて
抱きしめて欲しいと
打ち明ける勇気が 足りなくて
その心ごと
そっと 置いてきたテディベア
いつまでも そばにいるね
恋の思い出を胸にしまったままで
<傷>
あなたのやさしさの形
丸いと思っていたのに
一ヶ所だけ 角があるのね
気持ちの全てをゆだねて
抱きしめてみたいと思った
恐る恐る手を伸ばして
その心ごと 包み込もうとした時
痛みを感じた
素直になって愛し合うことは
なんて 難しいのでしょう
無防備なままに・・・
無邪気なままに・・・
そんなことは 無理なのでしょうか
あなたの優しさに潜む
一本の針を引き抜いて
その愛を受け止める人は 誰なのかしら
痛くて痛くて
涙が 溢れて止まらない


